2023年6月29日
ポイント
●膵がん患者で観察される四つの遺伝子の変異を模倣したモデルショウジョウバエを作出。
●このハエを用いた遺伝学的スクリーニングにより膵がんの治療標的としてMEKとAURKBを同定。
●この新規研究手法の活用による膵がんの発生素過程研究及び治療薬開発の一層の進展に期待。
概要
北海道大学遺伝子病制御研究所がん制御学分野の園下将大教授らの研究グループは、膵がん患者で観察される四つの遺伝子の変異を模倣した膵がんモデルショウジョウバエを作出し、これを用いた網羅的な遺伝学的スクリーニングを実施することで、膵がんの新規治療標的としてMEKとAURKBを同定することに成功しました。
膵がんは治療法の選択肢が極めて限られている代表的な難治がんの一つであり、新規治療標的の同定や治療薬開発が喫緊の福祉課題となっています。研究グループでは以前から治療薬開発を効率化するためにハエを哺乳類と相補的に活用し、甲状腺髄様がんに対する治療薬候補を開発してきました。本研究では膵がん患者で観察される4遺伝子の変異(がん遺伝子KRASの活性化とがん抑制遺伝子群TP53?CDKN2A?SMAD4の不活性化)を再現した4-hitハエを世界で初めて作出し、このハエが過剰な細胞増殖や個体致死等の表現型を呈することを見出しました。
研究グループはこの4-hitハエを用いて全キナーゼの網羅的な遺伝学的スクリーニングを実施して、膵がんの新規治療標的としてMEKとAURKBを同定し、MEK阻害薬trametinibとAURKB阻害剤BI-831266の組み合わせが4-hitハエの生存率を改善することを発見しました。この組み合わせ療法はヒト膵がん細胞の皮下移植モデルマウスにおいても、単剤投与と比較して腫瘍の成長を有意に抑制しました。これらの結果は、4-hitハエを用いた遺伝学的スクリーニングが膵がん新規治療標的の同定に有用であることを示しており、今後ハエを用いたこの新規研究手法の活用により膵がんの発生素過程研究及び治療薬開発が一層進展することが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年6月28日(水)公開の米国癌学会の機関誌Cancer Research誌にオンライン掲載されました。
論文名:Drosophila screening identifies dual inhibition of MEK and AURKB as an effective therapy for pancreatic ductal adenocarcinoma(膵がん遺伝子型モデルハエを用いたスクリーニングによる、MEKとAURKBを標的とする膵がんの新規組み合わせ療法の同定)
URL:https://doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-22-3762
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本研究の概要図。膵がん患者の遺伝子変異を模倣したモデルハエを作出し、全キナーゼの遺伝学的スクリーニングによって、MEKとAURKBを新規治療標的として同定した。また、MEK阻害薬trametinibとAURKB阻害剤BI-831266の同時投与による抗腫瘍効果を確認した。