北大天文同好会が低緯度オーロラの撮影に成功

<写真>北大天文同好会が撮影した低緯度オーロラ(提供:北大農学部4年の中山智博さん)

北極圏や南極圏など高緯度の地域で、大空に舞うカーテンのようにきらめくオーロラ。昨年12月、北海道のような低緯度の地域でも観測されたことが話題になりました。北大天文同好会の学生たちが十勝管内の鹿追町でこの「低緯度オーロラ」の撮影に成功しました。低緯度オーロラは空が赤く光るのが特徴で、肉眼ではっきり観測できたのは約20年ぶりといいます。オーロラは太陽の活動が盛んになると出現しますが、2025年ごろに太陽の活動が最盛期を迎えるまで、道内でもまだ観測のチャンスがありそうです。北大天文同好会の学生たちに、低緯度オーロラの撮影に成功した秘訣を聞きました。また、低緯度オーロラの見えるしくみについて、北大名誉教授の渡部重十さんに解説していただきました。

12月1日午後6時ごろ、北大天文同好会のメンバー6人は、車で札幌から東へ約180キロメートル離れた鹿追町へ向かいました。午後10時ごろに到着し、氷点下7度の観測地に降り立った一行は思わず息をのみました。夕焼けのようで少し色味が違う、赤紫色に鈍く光る空が目前に広がっていたからです。カメラのファインダー越しに見ると、縦に走る線が何本も見え、柱が立っているように見えました。音もなく舞う、赤いオーロラの証拠でした。

低緯度オーロラを観測している北大天文同好会のメンバー(中山さん提供) 低緯度オーロラを観測している北大天文同好会のメンバー(中山さん提供)

9回目の正直

「皆大騒ぎしながら、夢中でオーロラをカメラに収めました」と、北大農学部4年の中山智博さんは当日を振り返りました。中山さんは沖縄県にいた高校時代、北海道でオーロラがみられると知り、「日本でオーロラが見たい」と思い、国内でも極域研究が進んでいる北大に進学。天文同好会に入会し、これまでに8回ほどオーロラの観測に挑んだものの、実際に目にすることはかないませんでした。道内では過去に、陸別町や幌加内町など道東や道北で低緯度オーロラが観測されたことがありましたが、中山さんは自分で地図を見ながら、9回目の観測に挑戦する場所を探していました。

低緯度オーロラの観測に適した場所とは

中山さんによると、オーロラの観測に適した場所は、北側の視界が開けていてさえぎるものがなく、北に街明かりがない場所で、この条件がそろっていれば道内各地どこでも観測ができるといいます。道内で目星をつけていたのは、北側が海で暗く、札幌市内からのアクセスもいい積丹半島の先や、「なよろ市立天文台」がある名寄市などでしたが、下見の結果、条件がそろっていた鹿追町に決めました。また、オーロラの出現には太陽の活動が活発なことも関わっているので、中山さんは米国海洋大気庁(NOAA)のサイトなどで公開されている太陽の活動を定期的にチェックしました。中山さんは「観測を決行するかぎりぎりまで悩みましたし、行っても実際に見えるかどうかはわからないので、博打のような気持ちでした」と振り返りました。

今回鹿追町で観測された低緯度オーロラは、同行したメンバーがスマートフォンのカメラで撮影できたほど明るく光っていました。スマホでの撮影に成功した総合教育部1年の村田裕哉さんは「オーロラを見たのは初めてで、まさか日本で見られるとは...。遠い太陽から来た粒子を、オーロラという現象で自分の目で見られたことに感動しました」と話しました。中山さんは「天気も良く、いろいろな好条件が重なり、今回見られたことは本当に奇跡だと思います。またオーロラの撮影に挑戦したいです」と意欲をみせました。

スマートフォンで撮影された低緯度オーロラ(提供:北大天文同好会で総合教育部1年の村田裕哉さん) スマートフォンで撮影された低緯度オーロラ(提供:北大天文同好会で総合教育部1年の村田裕哉さん)
天文同好会のメンバー。中央が中山さん、左から二番目が村田さん。(撮影:齋藤有香) 天文同好会のメンバー。中央が中山さん、左から二番目が村田さん。(撮影:齋藤有香)

低緯度オーロラの正体

北大名誉教授で宇宙科学が専門の渡部重十さんは、北大天文同好会の写真について、「縦に走る線が何本も見え、柱が立っているのは、地球の磁力線に沿って光るオーロラの証拠です」と太鼓判を押します。渡部さんは、オーロラの見えるしくみについて、「オーロラは、地球の空気に含まれている窒素や酸素などが、太陽から飛んできた太陽風(プラズマ)と呼ばれる高エネルギーの粒子とぶつかって光る現象です」と解説します。オーロラは北極圏や南極圏の高度100㎞より高い上空で見られ、酸素の原子がプラズマ中のエネルギーの高い電子と衝突すると緑色に、エネルギーの低い電子と衝突すると赤色に光ります。赤いオーロラは緑のオーロラより高度が高い部分で見られ、太陽の活動が活発になるほどオーロラは縦方向(高度方向)に伸びて大きくなります。つまり、北海道など低緯度の場所から見えるオーロラは、北極近くで発生した大きなオーロラの上の赤い部分を斜め下から見ているというわけです。

「近世史料にみるオーロラと人々の認識」(著?磯部洋明ら)を参考に作図「近世史料にみるオーロラと人々の認識」(著?磯部洋明ら)を参考に作図

渡部さんは「私の祖父母はかつて浦河町に住んでいましたが、1950年代、北の空が突然真っ赤になって驚いたと言っていました。消防隊も山火事だと思って山の沢に入っていったが、結局何もなかった。当時の文献を見ると、そのころ世界中でオーロラが活発に観測されていたので、きっと祖父母は低緯度オーロラを見たのだと思います。さかのぼればアイヌの人たちも、もしかしたらオーロラを目にしていたかもしれないですね」と思いを馳せました。

謎が残るオーロラ

オーロラは太陽風によって発生しますが、地球の周りは磁力線でおおわれ守られているので、太陽から直接地球に降り注ぐプラズマはごくわずかといいます。一方、太陽から見て地球の裏側に「プラズマシート」というプラズマの吹き溜まりのようなものができ、そこから磁力線に沿って北極と南極に高エネルギーのプラズマが流れてオーロラとして明るく光るのですが、そのしくみはまだ謎が残されているといいます。

また、オーロラが見えるとき、地球の周囲の磁力線にも大きな変化が起きていて、その結果、大気の温度や密度が大きく変わって人工衛星の軌道に影響がでることもあるそうです。渡部さんは「美しいオーロラが見える背景には、宇宙環境の変化による気象衛星やGNSS(全球測位衛星システム)などの通信障害、人工衛星や国際宇宙ステーションの軌道変化などが起こることもあり、オーロラは私たちの生活にも深く関わっています。オーロラの研究者は今、太陽風の観測などによる宇宙環境の変化と予測(宇宙天気)の研究をしています」と話しました。

オーロラは太陽の活動が盛んになると出現しますが、2025年ごろに太陽の活動が最盛期を迎えるまで、道内でもまだ観測のチャンスがありそうです。多くの研究者やアマチュア天文家の写真がウェブ上で見られるかもしれませんね。

【聞き手?文: 広報?社会連携本部 広報?コミュニケーション部門 齋藤有香、
イラスト:広報課 広報?渉外担当 長尾美歩】