【動画公開】総長が行く「知の探訪」Vol.1「恐竜研究5つの価値」

総長 寳金清博、総合博物館 教授 小林快次

医学博士で脳外科医の寳金清博総長が、北海道大学の魅力あふれる研究者たちを訪問する「総長が行く『知の探訪』」シリーズ。第1回目は「恐竜研究5つの価値」と題し、「ダイナソー小林」こと小林快次教授と対談しました。北海道むかわ町で発見された新種の恐竜「カムイサウルス?ジャポニクス」の発掘と調査研究の陣頭指揮をとった小林教授。フィールド研究を強みとする北大の研究環境の魅力や、総合博物館を活用した今後の展望について語り合いました。

【日英字幕付き】総長が行く「知の探訪」Vol.1「恐竜研究5つの価値」寳金清博 総長 × 小林快次 教授


「仏像好き」の少年だった

寳金 先生がなぜこの学問に惹かれたのか、ぜひ聞かせてください。先生は福井県のお生まれで、小さいころから恐竜がお好きだったのでは。
小林 実は、小学生の頃は仏像が好きでした。昔から恐竜少年ではなかったんですが、福井県は恐竜の化石が多く出ていて、高校1年の時から発掘に参加するようになって、恐竜の道へ入っていきました。

総合博物館 小林快次教授 総合博物館 小林快次教授

寳金 仏像ですか。
小林 仏像と恐竜は全然違うものと思われがちですが、子供の時に仏像を目の前にして、数百年前にできたものと現代の自分との間に流れる時間を感じるのが好きだったんですよ。恐竜はそれがもっと古くなって、数千万年前とか数億年前になっただけで、同じ感覚です。
寳金 研究職について、親の反対などはありませんでしたか?
小林 親からは、「何をしてもいいけれど、人のためになりなさい」と言われました。「どんな研究でも好きなことでも、それが人のためになっているかを常に考えなさい」。それだけでした。

寳金清博総長 寳金清博総長

寳金 この仕事をしていて、一番楽しいことは何ですか。
小林 海外の調査で、アラスカやゴビ砂漠にヘリコプターで降り立つと、そこに恐竜を探しに来た人類はおそらく僕が初めてです。本当に自分の1歩が、月面の第1歩のよう。北大のフロンティア精神にも繋がると思いますが、調査も、発見も、研究も全部自分が人類初で、みんなに情報提供できるという興奮は常にあります。研究者はみんな、それが楽しいんだと思います。
寳金 全てがパイオニア。ちょっと他には得られない喜びですよね。


一言で表せる研究を

小林 私の研究では、大まかに言うと恐竜がいかに鳥に進化していったかという大進化の過程を調べています。消化器官、脳、翼、子育てなど、どのように爬虫類から鳥に進化したのかということです。あとは、アラスカ、カナダ、モンゴル、ウズベキスタンなどに行って、隕石が落ちる直前の7千万年前?9千万年前の年代に注目して、その時地球上に何が起こったかということを研究しています。

日本とモンゴルの発掘チーム。手前の白い塊は恐竜化石を輸送のために石膏で固めたもの。小林教授は前列右から2番目 日本とモンゴルの発掘チーム。手前の白い塊は恐竜化石を輸送のために石膏で固めたもの。小林教授は前列右から2番目

寳金 消化器の研究に特に興味を持っている理由は?
小林 私の研究室のモットーは「分かりやすい研究」です。一言で言える研究をしなさいと学生たちにも言っていて、私は「食の進化」にずっと取り組んでいます。
寳金 なるほど、食を通した恐竜の進化論ですね。
小林 消化器官のほかに脳にも実は関わってくるんですが、恐竜は何を食べていたのか、食べることでどうやって恐竜は自分たちの世界や生態系を作っていたか、その進化を探ることが、私がずっと研究しているテーマです。


北大の強みは「フィールドワーク」

寳金 北大は水産学部、農学部などもそうですが、伝統的にフィールド研究が強みですよね。
小林 私は北大に来て18年経ちますが、本当に好きなように研究させてもらえているし、学生たちも本当にのびのびとできていると思います。北大は日本の中でも良い大学ではないかと、お世辞ではなく本当にそう思っています。

日本人によって初めて発掘?研究された恐竜「ニッポノサウルス」の全身骨格標本(実物)を観察する2人。北海道帝国大学(現在の北海道大学)の長尾巧教授によって1936年に命名された 日本人によって初めて発掘?研究された恐竜「ニッポノサウルス」の全身骨格標本(実物)を観察する2人。北海道帝国大学(現在の北海道大学)の長尾巧教授によって1936年に命名された

寳金 そう言ってもらえるとうれしいですね。フィールドワークではどんな道具を使いますか?
小林 最先端には程遠い原始的なものしかありませんが、ハンマーなどを使います。本当にもう力仕事です。重機も使うし削岩機も使います。最後は小さいデンタルピック、歯科医の道具を使って細かいところを削っていく。そういう道具を使って発掘をしています。
寳金 フィールドワークでは野生の動物にも遭遇しますか。
小林 僕がよく行くアラスカにはグリズリーが出るので、クマを見張る双眼鏡と、出た時に知らせる笛も必需品です。多い時は1日に7回もクマに出会うことがあります。何度もグリズリーを目の前にして、威嚇のために散弾銃を撃つ、それが日常ですね。
寳金 最新機器も使いますか?
小林 ドローンを飛ばして空中からいろいろなデータを取っています。昔では撮れなかったような写真やデータが一括で三次元構築できるので。


知の蓄積をシェアする「総合博物館」

寳金 メディアに出るというのは、やはり我々の活動を知ってもらうための大事なミッションだと思います。
小林 私のところには恐竜を研究したいという学生がたくさん来ます。彼らには、恐竜研究に貢献するためには、研究者が唯一の道ではないということを昔から言っています。メディアはその一つの方法で、NHKのディレクターに私の研究室の卒業生が4人います。
寳金 研究に貢献できるのは、研究者だけではないということですね。
小林 僕もメディアに出るのは苦手ですが、やはり出ることで恐竜の魅力が伝わるし、北海道大学という名前が出ると大学の魅力も伝わっていくので、うまくメディアとタッグを組んでやっているところです。

総合博物館「古生物標本の世界」展示室 総合博物館「古生物標本の世界」展示室

寳金 小林先生は北大の総合博物館の副館長もされていますね。北大の博物館は、日本の大学博物館の中でもトップレベルだと自負しています。
小林 おっしゃる通りだと思います。コロナ禍以前は、年間来館者数が20万人を超える観光施設になっていました。そうやって多くの方に来ていただいて、北大の活動や魅力を発信し、北大の知の蓄積をシェアすることで、それに触れた若者が北大を目指すというサイクルができつつあるのではないかと思います。
寳金 大学の研究をわかりやすく市民に見てもらうという意味で、この博物館は本当に北大が目指す1つのモデルだと思って期待していますね。


研究の「5つの価値」とは

小林 私はよく「5つの価値」と言っています。1つ目は恐竜で言うと、恐竜の科学的な価値で、研究をして論文を出すこと。2つ目は教育的な価値。院生や学生だけではなく、生涯教育、ボランティアの人々が恐竜を通じて学ぶという教育的な効果です。
寳金 市民科学、シチズンサイエンスですね。
小林 3つ目が、それ自体が持っている歴史的な価値。例えば国寳や重要文化財など、お金にならないような価値があります。4つ目、5つ目は、広報的な価値と経済的な価値です。この5つが満たされることで、私の恐竜研究が1つの形になると思っています。
寳金 小林先生がそういうお考えを持っていることに驚きました。「経済のことなんか言ったらダメですよ」と言われるのかと。
小林 経済は非常に大事です。研究だけではなく、教育、経済、広報もバランスを考えながら、自分の親から言われていた「人のためになる」ということを追求し続けています。
寳金 それこそサステナブルな視点ですね。サステナブルな仕組みを作って、社会に出してその価値を問う、というのが今までの北大は弱かったと思うので、これからは是非やっていきたいですね。


対談を終えて

小林 大学をより良くしたい、1人でも多くの学生に北大に来てほしい、北大の魅力を伝えたいという気持ちは私にもあります。総長にも同じマインドを感じたので、これから一緒に、博物館も北大のためにできることは何でもしたいと思います。
寳金 小林先生は自分の興味だけでなく、大学全体のこともしっかり見てくださって、非常にバランスのいい方だと思いました。今後も北大の研究者と対談するのが楽しみです。

総合博物館内の「アインシュタインドーム」にて 総合博物館内の「アインシュタインドーム」にて

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English version is here.
The President's Adventures in Knowledge-Land Vol. 1 "Five Values of Dinosaur Research"